:外国語についての本2冊

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外山滋比古『外国語の読みと創造』(研究社出版 1980年)
丸山圭三郎『フランス語とフランス人気質』(日本放送出版協会 1982年)


 語学がなかなか上達しないので、なにかヒントはないものかと読んでみました。両書とも言葉の根本的な性質を理解しようとするところから出発しているのが共通点でしょうか。同じ時期の出版物ですが、この頃は言語学が一種のブームだったように思います。


 外山滋比古『外国語の読みと創造』は、日本の英語教育に対して、言語への深い洞察から批判をしています。
 主な問題点の指摘は、①入門書での文法的必要からコンテクストを破壊した不自然な文章の採用、②解釈における語順変更、③受け手側から見たスタイルが混乱していること、④減点主義評価法など。

 ①の不自然な文章として挙げられているのはIs this a dog? No, it isn’t. What is it? It is a cat.です。たしかにこんな会話をイギリス人がしているとは到底思えません。

 ②では、語順を遡って解釈する方法が、漢文を日本語に移す際の返り点にならったものという指摘をした後、英文を句や節ごとに意味を取り、語順は英文のまま理解する「部分的直読直解」の採用を提唱しています。

 ③は読む側にもある定型が身につくような反復練習が必要という指摘です。多様な文章を読むことが、逆に外国語の理解の妨げになっているという一面は、確かにあります。日本語を覚えた時は同じ本を何度もくりかえし、文章をほとんど覚えるまで読んだものですが。

 ④は言うまでもなく、少しでもできたことを評価することで、外国語嫌いをなくそうという主張です。

 一行分の穴をあけたカードをつくり、このカードを一定の速度で一行ずつずらせて読んでいく方法や、②の節ごとに理解をしながら文の頭から順に読んで行く方法、黙読は速く読めば読むほどよいこと、文章を理解するには少しでも早くコンテクストをつかみ全体の見通しをつけることなど、実践できそうなヒントがあちこちに見つかります。

 同じことを繰り返し述べる外山滋比古氏(あるいは編集者)の癖はこの本でも健在です。


 『フランス語とフランス人気質』の丸山圭三郎は、昔NHKテレビのフランス語講座に出ていた先生。構造言語学の人なので難解と思いきや、まず言葉遣いがですます調でびっくりした。説明もわかりやすく丁寧。

 著者の専門の構造言語学から、言葉というものの性質、構造について説明の後、日本語と比較しながらフランス語の個別の特性に触れ、最後にフランス人の性質と歴史、各地方の特徴、食べ物やワインについて書いています。前半の堅苦しさに比べて、後半はかなり気楽な雰囲気。

 昔聞いたことのあるような話が多かったですが、まとめて読んでみるとまた賢くなったような気がしました。

 面白い文章があったので、引用しておきます。

机の冬は、病みあがりの色できしみつづけ、
妙なる屍は、新たなる酒を飲むであらう。/p62

→一行目は失語症患者の書いたもの、二行目はシュルレアリストの実験詩


でたらめな英文を作り、その構文を保ちながら、フランス語と日本語に訳すと下記のようになるという例。

The narpish galasts morted the fleens statiously.(英語)
Les galâts narpeux mourtaient statieusement les flènes.(フランス語)
なるぽな がらつ達が、ふりぬどもを すたしに むるてした。(日本語)/p164