最近読んだ本

日本のユートピア関連二冊

中西進『ユートピア幻想―万葉びとと神仙思想』(大修館書店 1993年) 日野龍夫『江戸人とユートピア』(朝日選書 1977年) 万葉と江戸のユートピアというので共通するものがあるかと思いきや、まったくテイストの異なる二冊。中西進のものは、万葉時代の歌や…

芳賀徹の桃源二冊

芳賀徹『桃源の水脈―東アジア詩画の比較文化史』(名古屋大学出版会 2019年) 芳賀徹監修『桃源万歳!―東アジア理想郷の系譜』(岡崎市美術博物館 2011年) 桃源に関する本は、前回の『桃源郷』以外に、これまで杉田英明編『桃花源とユートピア』、芳賀徹「…

川合康三『桃源郷』

川合康三『桃源郷―中国の楽園思想』(講談社 2013年) 日本の常世の話の次は、中国の桃源郷についての本。常世とか桃源郷、またユートピアなど、人々が現実とは別のもう一つの世界を思い描くのは世界共通の現象ですが、中国における独自のあり方について、中…

谷川健一『常世論』

谷川健一『常世論―日本人の魂のゆくえ』(講談社学術文庫 1989年) タイム・トラベルの次は、この世の外の話。谷川健一の著書は昔からよく見かけますが、ほとんど読んだことがなく、『神に追われて』という小説的雰囲気の濃厚なノンフィクションと(2014年10…

ミチオ・カク『パラレルワールド』

ミチオ・カク斉藤隆央訳『パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ』(NHK出版 2006年) 引き続いて、タイムトラベルに関連した物理学の本。相対性理論誕生後の宇宙や物質に関する現代物理学の趨勢が概観できた気がします。と偉そうに言っても、門外漢の…

ジョン・グリビン『タイム・ワープ』

ジョン・グリビン佐藤文隆/田中三彦訳『タイム・ワープ―平行宇宙への旅』(講談社 1983年) なぜか書棚にあったので、タイムトラベルについて物理学の視点から書かれ本を読んでみました。ふだん科学書を読んでない私には、知らないことが多くありました。著…

青山拓央『タイムトラベルの哲学』

青山拓央『タイムトラベルの哲学』(講談社 2002年) 次は、タイムトラベルについての哲学的考察。新刊で出た当時に一度読んでいます。ちょうどその頃、野矢茂樹の『哲学の謎』や中島義道『「時間」を哲学する』など、時間に触れた入門書的な本を続けて読ん…

浅見克彦『時間SFの文法』

浅見克彦『時間SFの文法―決定論/時間線の分岐/因果ループ』(青弓社 2015年) 私の所持している限りで時間SF作品を読み続けてきましたが、ここからは時間SFやパラレル・ワールドなどについての評論を読んで行きたいと思います。まず多くの作品の例証を挙げな…

時間・次元SFアンソロジー二冊

ロバート・A・ハインラインほか福島正実編『別世界ラプソデー―時間・次元SF』(芳賀書店 1972年) C・ファディマン編三浦朱門訳『第四次元の小説』(荒地出版社 1960年) 二冊とも、読むのは2回目で、『別世界ラプソデー』は35年前、『第四次元の小説』は約4…

タイム・スリップ長編二冊

ジェリー・ユルスマン小尾芙佐訳『エリアンダー・Mの犯罪』(文春文庫 1987年) ジュード・デヴロー幾野宏訳『時のかなたの恋人』(新潮文庫 1996年) わが家にある本のなかから手あたり次第、時間SFに関係した本を読んでいますが、今回はともにかなり長めの…

時間SFの古典『タイム・マシン』ともう一冊

H・G・ウエルズ宇野利泰訳『タイム・マシン―H・G・ウエルズ短篇集Ⅱ』(早川書房 1967年) サム・マーウィン・ジュニア川村哲郎訳『多元宇宙の家』(早川書房 1967年) ハヤカワ・SF・シリーズを2冊並べてみました。『タイム・マシン』は学生時代に一度読んだ…

『時間泥棒』と『時間衝突』

ジェイムズ・P・ホーガン小隅黎訳『時間泥棒』(創元SF文庫 1995年) バリントン・ベイリー大森望訳『時間衝突』(創元SF文庫 1994年) 似たようなタイトルの本。読んだ順番です。原書は『時間泥棒』1994年、『時間衝突』1973年と、『時間衝突』の方がかなり…

アリスン・アトリー『時の旅人』

アリスン・アトリー小野章訳『時の旅人』(評論社 1988年) 前回報告の近代的なSFのあとは、古風な味わいのタイムトラベル・ファンタジーです。アメリカSFと好対照の古色蒼然としたイギリスの伝統を感じさせられました。1939年に刊行されたと言いますから、…

タイムトラベルテーマの短篇集2冊

フィニイ、ヤング他/中村融編『時の娘』(創元SF文庫 2009年) P・J・ファーマー他/伊藤典夫・浅倉久志編『タイム・トラベラー―時間SFコレクション』(新潮文庫 1987年) フィニイのタイムトラベルものをずっと読んできましたが、次はタイムトラベルの短篇集…

ジャック・フィニイの2冊

ジャック・フィニイ山田順子訳『夢の10セント銀貨』(ハヤカワ文庫 1990年) ジャック・フィニイ福島正実訳『マリオンの壁』(角川書店 1975年) 引き続きフィニイを2冊読んでみました。いずれもタイムトラベルを扱った長編ですが、『夢の10セント銀貨』は多…

フィニイ『時の旅人』

ジャック・フィニイ浅倉久志訳『時の旅人』(角川書店 1996年) 『ふりだしに戻る』の続編ということなので、続けて読みました。この本も文庫にすれば上下二冊になるほどの分量で、読みごたえがありました。続編と言っても、『ふりだしに戻る』から25年もの…

ジャック・フィニイ『ふりだしに戻る』

ジャック・フィニイ福島正実訳『ふりだしに戻る(上)・(下)』(角川文庫 1991年) 時間旅行をテーマにしたフィニイの長編を読んでみました。あとがきで訳者も書いているように、『ゲイルズバーグの春を愛す』などの短篇のテイストがあり、それを目いっぱ…

ジャック・フィニイの二冊

フィニイ福島正実訳『レベル3』(早川書房 1961年) ジャック・フィニイ福島正実訳『ゲイルズバーグの春を愛す』(ハヤカワ文庫 1980年) 幻想都市、迷宮都市、架空の国、地図にない町などの本を読んでいますが、これはSFで扱う時間テーマのテイストにかなり…

『どこにもない国』と『地図にない町』

S・ミルハウザーほか柴田元幸編訳『どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集』(松柏社 2006年) フィリップ・K・ディック仁賀克雄編訳『地図にない町―ディック幻想短篇集』(ハヤカワ文庫 1976年) 「どこにもない」とか「地図にない」とか幻の町がテーマと…

東雅夫編『架空の町』

東雅夫編『架空の町』(国書刊行会 1997年) 国書刊行会の「書物の王国」という幻想小説アンソロジー・シリーズの第1巻目。アジアの架空の村の原点ともいえる陶淵明の桃源郷の小話を皮切りに、前半では、マンデヴィルの『東方旅行記』や千夜一夜物語など、遠…

『幻影都市のトポロジー』と『もうひとつの街』

A・ロブ=グリエ江中直紀訳『幻影都市のトポロジー』(新潮社 1979年) ミハル・アイヴァス阿部賢一訳『もうひとつの街』(河出書房新社 2013年) この二冊に共通するのは、夢のなかの出来事のように、支離滅裂、意味不明、何でもありの、書きたい放題、とも…

『方形の円』と『迷宮都市』

ギョルゲ・ササルマン住谷春也訳『方形の円―偽説・都市生成論』(東京創元社 2019年) デヴィッド・ブルックス実川元子訳『迷宮都市』(福武書店 1992年) タイトルに「都市」と名がついて、架空の、幻影の、迷宮の、異次元のといった形容詞のついた、幻想小…

カルヴィーノ『マルコ・ポーロの見えない都市』

イタロ・カルヴィーノ米川良夫訳『マルコ・ポーロの見えない都市』(河出書房新社 1983年) これからしばらくは、架空都市、幻想都市、迷宮都市、異次元都市…に関連した小説、評論、詩を読んで行きたいと思います。まず第一弾は、この分野の先陣を切ったカル…

長谷川正海『日本庭園雑考』

長谷川正海『日本庭園雑考―庭と思想』(東洋文化社 1983年) これで庭の本はいったん終わりにします。著者略歴を見れば医学の教授とあり、趣味が高じて庭の研究に打ち込まれたみたいですが、相当熱心に調べていて、庭の研究者としても十分やっていけそうに思…

庭園に関する本三冊

野田正彰『庭園との対話』(日本放送出版協会 1996年) 円地文子編『日本の名随筆―庭』(作品社 1983年) 高木昌史編訳『庭園の歓び―詞華による西欧庭園文化散策』(三交社 1998年) とにかく庭に関しての本。『庭園との対話』はNHK教育テレビの番組のテキス…

日本の庭に関する本二冊

宮元健次『月と日本建築―桂離宮から月を観る』(光文社新書 2003年) 栗田勇/岩宮武二(写真)『石の寺』(淡交社 1965年) 異質な本ですが、同時期に読み、また二冊とも日本の庭に関連しているので並べてみました。かたや、月を軸に日本の建築や庭を論じた…

作家の書いた「日本の庭」二冊

室生犀星『日本の庭』(朝日新聞社 1943年) 立原正秋『日本の庭』(新潮文庫 1983年) 日本の庭についての本。同じ作家で、しかも二人とも寺で育ったという境遇も同じ。しかし印象がまるで違った本になっています。生きていた時代が異なるせいもありますが…

日本の庭についての本二冊

海野弘『都市の庭、森の庭―未知なる庭園への旅』(新潮選書 1983年) 奈良本辰也『京都の庭』(河出新書 1966年) いよいよ日本の庭が中心の本です。この二冊に共通するのは、アットランダムな個々の庭の探訪が主軸になっているところです。正面を切って、庭…

西沢文隆『庭園論Ⅰ』

西沢文隆『西沢文隆小論集2 庭園論Ⅰ―人と庭と建築の間』(相模書房 1975年) 庭についての本の続き。西洋から日本の庭の方に移行していきます。この本は、庭と建築の関係を空間の視点から論じているのが特徴で、西洋の空間にも目を配りつつ、日本の庭につい…

『庭園の詩学』

チャールズ・W・ムーア/ウィリアム・J・ミッチェル/ウィリアム・ターンブル・ジュニア有岡孝訳『庭園の詩学』(鹿島出版会 1995年) この本には、これまで読んだ庭園の本とは違うテイストがありました。タイトルどおり、詩的な着眼点がすばらしいこと、広…